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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)2515号 判決 1988年7月27日

控訴人(被告) 城東建販株式会社

訴訟代理人 籾山幸一

被控訴人(原告) 東信建材株式会社

訴訟代理人 斉藤勘造

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

(当事者双方の主張)

一  被控訴人の請求原因及び主張

1  被控訴人は静和産業株式会社(以下「静和産業」という)に対し、別紙売買代金目録(1) 記載のとおり、昭和六〇年九月一二日から同年一〇月四日までの間に、生コンクリート合計二二五・五立方メートルを代金合計金一七七万一三〇〇円で、また別紙売買代金目録(2) 記載のとおり、同月九日から同月二九日までの間に、生コンクリート合計一三〇五・五立方メートルを代金合計金一一八〇万五四二五円で、さらに別紙売買代金目録(3) 記載のとおり、同月二一日、生コンクリート三五立方メートルを代金四一万四七五〇円で、いずれも売り渡した(右売買代金総計金一三九九万一四七五円の債権を以下「1の債権」という)。

2  静和産業は株式会社日創(以下「日創」という)に対し、右期間内に右生コンクリートを代金合計金一四二二万六三七五円で売り渡した(この債権を以下「2の債権」という)。

3  そこで、被控訴人は昭和六〇年一一月二八日東京地方裁判所に対し、1の債権を請求債権とし、2の債権のうち1の債権額に満るまでの債権に対し債権仮差押命令の申立てをしたところ(同裁判所昭和六〇年(ヨ)第八〇九三号・以下「1事件」という)、同裁判所は同日仮差押決定をし、右決定正本は、同月二九日第三債務者日創に、同年一二月一三日債務者静和産業にそれぞれ送達された。

4  次いで、被控訴人は昭和六一年六月二八日東京地方裁判所に対し、2の債権から中間利潤金二三万四九〇〇円を差し引いた金一三九九万一四七五円について、1の債権にかかる動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、債権差押転付命令の申立てをしたが(同裁判所昭和六一年(ナ)第一二五一号、同年(ヲ)第四八五九号・以下「2事件」という)、同裁判所は同年七月一九日右申立てを却下する旨の決定をしたので、被控訴人はさらに同月二五日東京高等裁判所に対し執行抗告の申立てをしたところ(同裁判所昭和六一年(ラ)第四八九号)、同裁判所は昭和六二年三月四日原決定を取り消したうえ、債権差押転付命令を発し、右決定正本は、同月六日第三債務者日創に、同年四月一二日債務者静和産業にそれぞれ送達された。

5  一方、控訴人は昭和六一年六月二八日東京地方裁判所に対し2の債権につき債権差押命令の申立てをしたところ(同裁判所昭和六一年(ル)第三二八一号・以下「3事件」という)、同裁判所は同月三〇日債権差押命令を発し、右決定正本は、同年七月一日第三債務者日創に、同月一五日公示送達の方法により債務者静和産業にそれぞれ送達された。なお、控訴人の後記二の2の主張事実は認める。

6  このため、日創は昭和六一年九月一一日、民事執行法一五六条二項に基づき、金一二七八万二六七三円を東京法務局に供託したうえ(同法務局昭和六一年金六四二八二号)、同月二二日東京地方裁判所に対し事情届を提出した。

7  そこで、東京地方裁判所は配当事件として(同裁判所昭和六一年(リ)第一三七八号)手続を進め、別紙配当表記載のとおり、配当表を作成して、同年一〇月二九日配当期日を開いたところ、被控訴人は控訴人の配当額について異議を述べ、かつ、本件配当異議の訴えを提起した。

8  被控訴人の異議についての法律上の主張は、次のとおりである。

被控訴人は、2の債権に対し仮差押えの執行をしたうえ、配当要求の終期である第三債務者の供託時までに、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、担保権を証する文書を提出し、債権差押転付命令の申立てをした。その後右債権差押転付命令を取得し、同決定正本は第三債務者である日創に送達されたのであるから、右転付命令は日創のした本件供託金について効力が生じたものというべきである。したがつて、被控訴人が本件供託金につき優先弁済権を有することは明白である。

9  よつて、東京地方裁判所が前記配当事件につき作成した配当表のうち、「控訴人に対する交付額八八四万五五四二円」を「被控訴人に対する交付額八八四万五五四二円」に変更することを求める。

二  控訴人の答弁及び主張

1  請求原因1、2の事実は知らない。同3ないし7の事実はいずれも認める。

2  控訴人は静和産業に対し、(1) 昭和六〇年五月二二日から同年六月二〇日までの間に、生コンクリート金七四五万七八〇〇円相当と砂・砂利等金一万六〇〇〇円相当を、(2) 同月二一日から同年七月二〇日までの間に、生コンクリート金七一〇万二九二五円相当と砂・砂利等金五万八〇〇〇円相当を、(3) 同月二一日から同年八月二〇日までの間に、生コンクリート金六六六万八三二五円相当と砂・砂利等金一六万二六五〇円相当を、(4) 同月二一日から同年九月二〇日までの間に、生コンクリート金九一六万三九七五円相当を、(5) 同月二一日から同年一〇月二〇日までの間に、生コンクリート金三四二万六九〇〇円相当を、(6) 同月二一日から同年一一月二日までの間に、生コンクリート金一一万六一〇〇円相当をいずれも売り渡した。そして、控訴人は右代金債権のうち残額三〇八〇万九〇七五円について確定判決を得たうえ、被控訴人主張のとおり、3事件により、2の債権につき差押命令を得たのである。

3  控訴人の法律上の主張は、次のとおりである。

被控訴人のした仮差押えの執行は、一般債権を保全する効力しか有せず、右仮差押えの執行が、先取特権に基づく物上代位権の行使としての、民法三〇四条一項但書にいう差押えに該当するということはできない。そして、被控訴人は、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使としての差押転付命令の申立てをしたとはいえ、これを却下されたのであるから、その優先権を確保しようとするならば、配当要求の終期までに、改めて担保権を証する書面を提出して、配当要求をすべきであつたのである。しかるに、被控訴人はこのような手続をしなかつたのであるから、その後においてその主張のような転付命令を得たとしても、本件配当手続において優先弁済権を主張することはできない。

(証拠関係) <省略>

理由

一  請求原因3ないし7の各事実、及び控訴人の主張2の事実については、いずれも当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第一号証によれば、請求原因12の各事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  右認定事実によると、被控訴人は2の債権のうち1の債権の金額に満るまでの債権について、動産売買先取特権に基づく物上代位権を有していることが明らかである。

そして、また右認定事実によると、被控訴人は昭和六一年六月二八日東京地方裁判所に対し、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、2の債権のうち1の債権額に相当する債権について、債権差押転付命令の申立てをしたが、右申立ては同裁判所で却下され、東京高等裁判所への執行抗告の後、右裁判所が原決定を取り消したうえ、債権差押転付命令を発布したのは、昭和六二年三月四日であるところ、第三債務者である日創は、すでに昭和六一年九月一一日に民事執行法一五六条二項に基づき金一二七八万二六七三円を東京法務局に供託したというのであるから、右供託金に相当する債権については、第三債務者日創の債務者静和産業に対する債務としては消滅した結果、被控訴人が取得した右債権差押転付命令のうち、右供託金に相当する債権については、債権不存在により、その効力が生じなかつたといわなければならないし、また、右債権差押転付命令が右供託金に対してその効力が及んでいるということもできない。

したがつて、2事件につき東京高等裁判所により債権差押転付命令が発布されたことを、本件配当異議の理由とすることはできない。

三  ところで、民事執行法(以下単に「法」という)一六五条によると、控訴人による差押債権に配当加入するためには、同条が定める配当要求の終期までに、差押え、仮差押えの執行又は配当要求をしなければならないとされている。そして、前記認定の事実によると、本件における配当要求の終期は、第三債務者である日創が本件供託をした昭和六一年九月一一日であることが明らかである。また、優先弁済権を有する債権者であつても、右差押債権に対して配当加入するためには、法一六五条の方法によらなければならないことはいうまでもない。

1  そこでまず、被控訴人が差押えをしたかどうかの点について判断するに、被控訴人の差押命令は本件供託金に対してその効力が生じていないのみならず、前記認定の事実によると、被控訴人の申立てに基づき東京高等裁判所から発布された差押命令が第三債務者である日創に送達されたのは、昭和六二年三月六日であつて、それが本件配当要求の終期である昭和六一年九月一一日より後であることは明らかであるから、被控訴人は法一六五条にいう差押えをしたものに該当しないといわなければならない。

2  次に、被控訴人が仮差押えの執行をしたかどうかの点については、なるほど被控訴人は1事件について東京地方裁判所から仮差押決定を取得し、その執行をしたことが認められるが、被控訴人は一般債権者の地位に基づいて右仮差押えの執行をしたにすぎないから、被控訴人は右仮差押えの執行をしていても、一般債権者としての地位に基づき配当加入をなしうるだけであつて、右仮差押えの執行を根拠に優先弁済権を主張することはできない。

3  さらに、被控訴人が配当要求をしたかどうかの点について検討する。

動産先取特権に基づく物上代位権を有する債権者は、その配当要求の終期までに、担保権の存在を証する文書を提出して先取特権に基づく配当要求をなす外、これに準ずる先取特権行使の申出をした場合も、前記配当要求をしたという要件を充足するものというべきである(最高裁判所昭和六〇年(オ)第二三二号、同六二年四月二日第一小法廷判決・判例時報一二四八号六一頁参照)。

しかるところ、被控訴人が本件配当要求の終期までに、配当要求をしたとの点については、何ら主張立証がない。

また、右仮差押えの執行について、先取特権者として権利を行使する旨の意思表示を執行裁判所にしたとの点についても、主張立証がない。

そこで次に、2事件について被控訴人が動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、債権差押転付命令の申立てをした時に、その申立てをもつて先取特権に基づく配当要求をしたことに準ずる取扱いをなしえないかということが問題となる。本来債権差押命令は、第三債務者に送達されなければ、その効力が生じないが(法一四五条四項)、差押えの申立時に配当要求の効力を認めようとする見解も少なくない。しかしながら、当裁判所は、差押えが申し立てられたのみで未だ差押えの効力が生じていないのに、それに配当要求に準じた効力を認めようとするのは相当でないと判断する。その理由は次のとおりである。即ち、(1) 配当要求は、執行裁判所に対して、配当要求を理由づける債権の原因及び額を記載した書面を提出してすることになるが(民事執行規則一四五条、二六条)、その際どの差押事件に配当要求するのかも当然に明らかにしなければならない。ところが、差押えの申立書に配当要求をなすべき差押事件の記載がなされるはずがない。また債権差押命令を発布する管轄執行裁判所は、原則として債務者の普通裁判籍の所在地によつて定まるところ(法一四四条一項)、それが必ずしも一つであるとは限らない。しかも第三債務者による陳述は常になされるわけではないから(法一四七条一項参照)、配当裁判所が第三債務者の陳述によつて、後行の差押えの申立てがなされたこと及びその申立ての時期を常に知り得るとはいえない。したがつて配当要求の終期の時点では未だ差押えの申立てをしたにすぎない者にまで配当加入を認めようとすると、そのような者が存在することを配当裁判所は必ずしも容易に把握できず、またこのような場合に備えた手続規定も存しないのであるから、通常事情届に基づいて配当を実施すれば足りる配当裁判所にあつては、配当を受けるべき債権者をすべて把握できない事態が起こりうる。このような事態を招来することとなる見解は、執行事件の手続の安定を阻害するものであり、簡明な手続きにより迅速円滑な執行を図ろうとする民事執行法の基本的な考え方とはなじまないものというべきである。なおこのため差押命令の発令裁判所が同一である限りにおいて、後の差押えの申立てにも配当要求の効力を認めようとする見解も生ずるのであるが、このような見解は便宜的にすぎるというべきである。(2) 差押えの申立てが数個なされても、差し押さえるべき債権の額が執行債権の合計額以上の場合には、差押えの競合の問題は起こらない。この場合、各債権者はそれぞれ差し押さえた債権から個別に満足を受けることができる。また、差押えの競合が生じても、先行の差押えが差し押さえるべき債権の一部についてのみなされていた場合には、差押債権額は差し押さえるべき債権の全額にまで拡張される。ところが、差し押さえた債権に配当要求がなされた場合には、これによつて差押債権額が拡張されるわけではないから、配当加入が認められるかどうかは、先行の差押債権者にとつて、その影響するところが極めて大きいといわなければならない。したがつて、法が明文をもつて定める場合以上に配当加入をなしうる者を拡張し、殊に債権執行において平等主義を拡大することに対しては、慎重な態度が要求されるというべきである。(3) もともと、配当要求をなしうる債権者は、直ちに強制執行または先取特権の行使としての差押えをなしうる資格を有するものである(法一五四条一項参照)。その債権者が配当要求の方法ではなく、より多額の満足が得られることを期待して差押えの方法を選択した以上、差押えの効力の発生時期が遅れ、その結果配当が受けられなくなつたとしても、やむをえないところというべきである。(4) もつとも、法八七条一項によれば、不動産執行の場合には、配当を受けるべき差押債権者は、配当要求の終期までに差押えの申立てをした者とされている。しかし、債権執行の場合には、法一六五条に、配当要求の終期までに差押えの申立てをした者も含まれるという趣旨の文言がないし、不動産執行の場合であれば、差し押さえられた不動産の売却代金全額が配当の原資になるのに対し、債権執行の場合には、配当の原資は差押債権額に限定されるのであるから、両者を同一に取り扱わねばならない必然性はない。

したがつて、配当要求の終期までには、債権差押転付命令の申立てをしたのみで、配当要求をしていない被控訴人に対しては、右差押えの申立てを根拠に、先取特権に基づく配当要求をしたことに準ずる取扱いはなしえないものといわなければならない。

4  以上において検討してきたところに従えば、被控訴人は本件供託金について、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、優先弁済権を主張することはできないことが明らかである。

四  そうすると、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきである。

よつて、右と異なる原判決を取り消して、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 枇杷田泰助 裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林亘)

別紙 売買代金目録(1)

売買月日    品名   単価円 数量立方メートル  金額円

9月12日 Cコンセメント量210キロ 7,600  2     15,200

14日 Aコンセメント量310キロ 9,050  5     45,250

トクBコン        8,300  5     41,500

19日 トクBコンスランプ15   8,300  3.5    29,050

24日 Aコンスランプ15     9,050  5     45,250

セメント300キロ

トクBコンスランプ15   8,300  4     33,200

26日 Aコンスランプ15     9,050  9.5    85,975

27日 Cコンスランプ15     7,600  92.5   703,000

1対3モルタル     12,350  1     12,350

28日 トクBコンスランプ15   8,300  6.5    53,950

10月2日 トクBコン        8,300  1.5    12,450

3日 1対3モルタル     12,350  1     12,350

Cコンスランプ15     7,600  84    638,400

Aコン          9,050  2.5    22,625

4日 トクBコンスランプ15   8,300  2.5    20,750

合計                  225.5  1,771,300

別紙 売買代金目録(2)

売買月日    品名   単価円 数量立方メートル  金額円

10月9日 Cコンスランプ12     7,600  3     22,800

11日 Aコンスランプ15     9,050  4.5    40,725

Cコンスランプ15     7,600  8     60,800

16日 Aコンスランプ15     9,050 754   6,823,700

1対3モルタル     12,350  1     12,350

24日 1対3モルタル     12,350  1     12,350

Aコンスランプ15     9,050 412.5  3,733,125

25日 Aコン          9,050  86.5   782,825

26日 Aコン          9,050  7     63,350

28日 Aコン          9,050  5.5    49,775

29日 Aコン          9,050  22.5   203,625

合計                 1,305.5  11,805,425

別紙 売買代金目録(3)

売買月日 品名       単価円 数量立方メートル 金額円

10月21日 強度100キロ

スランプ18

人工骨材15ミリ

比重1.85のもの  11,850    35     414,750

配当表<省略>

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